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2008/09/04
「写真の整理のために使ってみようかな」 こんな気持ちでブログをスタートさせる人はとても多いと思う。しかし、ブログとは言うまでもなく世界と繋がっているインターネット上のツール。それゆえ、そんな何気ない動機で始めた記録が思わぬ出会いを生み出すことがある――。 今回は、こんな物語とともにひとつのブログを紹介しよう。 今回ご紹介するのは、『まちかどの西洋館別館・古写真・古絵葉書展示室』。『まちかどの西洋館』という近代建築・近代化遺産を紹介したホームページの別館として始まった古写真や古絵葉書を紹介しているブログだ。 「当初は、メインのホームページ内で近代化遺産の資料として、古写真や古絵葉書を紹介していました。しかし、サイトの容量が不足してきたことと、更新や整理のしやすさからブログを使ってみることにしたのです。開設初期は、洋館や街並みを主に扱っていましたが、古写真・古絵葉書自体の魅力を知るうちに艦船や鉄道、車両や航空機といったものにまでテーマを拡げていきました。また、扱う資料は基本的に戦前までのものですね」 このようにブログを始めたきっかけを話すのは、管理人の「べーさん」だ。そんな彼が紹介する古い写真や絵葉書を見ると、得も知れぬ楽しさを覚える。その源泉は、どういったところにあるのだろうか。 「古写真の魅力は、やはり現存しない街の風景や建物を見ることができる点ですね。特に私の地元(京都府北部)を撮影した古写真・古絵葉書は、私の知らない故郷を見せてくれますので感慨深いものがあります。また、明治初期、つまり文明開花直後の洋館の立つ街並みなどからは、独特のロマンを感じますね」 では、そんな古写真に魅かれてやまない「べーさん」さんから、思い出に残る写真・絵葉書を紹介してもらおう。それは、2008年6月8日のエントリー「古絵葉書・辻紡績本館(旧京都綿ネル本館)」だという。 京都市の壬生の地、JR嵯峨野線沿いに広大な敷地を持つ工場があります。そこがかつての京都綿ネルの工場で、明治31年に工場が作られました。大正4年、辻紡績に譲渡されるのですが、この絵葉書はその辻紡績時代に撮影されたものです。 「この絵葉書に映っている建物は、日本写真印刷本館として現存としている明治の洋館ですが、現在修復保存工事をしております。その修復プロジェクトにとある建築史の大学教授の方が参加されているのですが、その先生から『ブログで紹介されている辻紡績の絵葉書は、完成当時の京都綿ネル時代と現在の日本写真印刷との間の時代を埋めるきわめて貴重な資料だ。他に参加している教授も感激している』とのメールをいただき、資料を提供しました。まさか自分がアップしていた絵葉書が、それほど重要な資料だったとは思いもよりませんでしたが、洋館修復工事にお力添えできたことは、とても嬉しかったですね」 何気ない気持ちでアップしていた写真が、往時の姿を探し求める人の役に立つとは、なんともいい話ではないだろうか。このように「べーさん」が紹介した写真が誰かの役にたったという例はまだまだ他にもある。 現在世界遺産になっている原爆ドームのかつての姿、広島県物産陳列館の絵葉書です。広島県物産陳列館は、大正4年にチェコ人建築家ヤン・レツルによって設計されました。特徴的なドームと元安川に写る大きな洋館は、当時多くの人の目を引いたことだと思います。 「これは原爆ドームのかつての姿を紹介したものですが、ここでアップしている古い絵葉書が、いつのまにか『ウィキペディア(Wikipedia)』の『原爆ドーム』の項目で画像資料として紹介されていたのです(リンクも貼られていました)。まさか自分のブログの画像が、あんな有名サイトで使用されるとは思ってもいませんでしたので驚きましたね」 どんな貴重な資料であっても、引き出しの中にあってはなかなかその真価は発揮できない。それがこうやってネット上にアップすることによって、多くの人の目に触れて輝きを増していく――。実に有益な話ではなかろうか。 「古写真や古絵葉書の資料依頼は、いろんなところからいただきます。私としては、このブログがこういう形で色んな人に利用されて役立つことは、とても嬉しく更新の活力になりますね」 こう語る「べーさん」は、人々の喜びを糧に、これからも資料を収集していつかは本を出せれば――と夢描いているという。ブログを使って写真をアップする。こんな何気ない行動が、思わぬ力を生み出すのだ。 (岡部敬史)
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