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2006/11/16
今日の思い出,日々の感動を絵筆に込めて描きあげる「絵てがみ」。昨今は,愛好者が増えていると聞く。ぬくもりのある可愛らしい絵と一編の詩にも通じる言葉を添えるのが絵てがみの基本的なスタイルである。実は最近,ある絵てがみと出会い,面と向かって言葉で伝えるのが苦手な日本人にとって絵手紙は適したコミュニケーション手段なのかもしれないと思うようになった。 筆者にはいつの間にか高齢者に仲間入りした母がいる。ありがたいことに,身体も口もまだ達者である。しかし,実家を離れてみて気づいた。毎日一緒だったときは,健康そのものに見えたが,やはりだんだんと衰えている。たまに逢うからこそ気づく変化かもしれない。 そんな母に,毎年秋になると大好物の柿を贈ることに決めている。静岡県出身の母は,身が締り歯ごたえのよい次郎柿という品種を好む。次郎柿が生まれた土地は,母と同じ静岡県。約130年前に松本治郎という人が育てた甘柿で,熟してもしっかりとした固さがあるのが特徴。戦前はこのカリコリとした次郎柿が主流だったという。 母はおもむろに柿をほおばると,シャリシャリと実に小気味いい音をたてて味わっていた。お互いに表だって感謝の気持ちを表すしたわけではないが,実は心の底からうれしかったようだ。 母の気持ちに気づいたのには1通のはがきを通してだった。50の手習いで始めた絵てがみである。母は家業を営んでいた頃には考えられなかった自分の時間を,絵てがみという趣味を通してようやく手にしていた。柿を贈ってからしばらくして実家に戻ったある日,母の描いた絵てがみが玄関先に飾られていた。はがきいっぱいに描かれた次郎柿に,感謝の言葉が添えられていたのだ。 自分の気持ちを素直に伝えられる絵てがみ。ブログで「北川ふぅふぅの「赤鬼と青鬼のダンゴ」~絵てがみのある暮らし~」に出会ったとき,ふと母の顔が浮かんできた。絵てがみの魅力を存分に感じさせてくれるブログ。一瞬の心模様を描き出す絵てがみを次々に眺めていると,自身の思い出をいろいろと引き出してくれるのだ。 (原 如宏)
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