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大人のブログ探訪

「アグリコ日記」

2006/04/27

「アグリコ日記」

 今回ご紹介するブログ『アグリコ日記』は,岩手県の集落で自足生活を営むアグリコさんが綴るものだ。

 自足生活とはどのようなものなのか。どういった生活ぶりなのか――。そのあたりのことは,言葉を弄するよりもこんなエントリーで感じとっていただこう。

 軒下の陽だまりにぽこぽこと顔を覗かせたふきのとう。我が家の春だ。久しぶりの土の感触。もう雪じゃなくて,雨が降る季節になったんだね。両手いっぱいに採ったふきのとう。青い草の香り。ほろ苦さに春一番を感じる。

 冬の間の4ヶ月,我が家に野菜といえば青菜の漬物とたくあんしかない。それとカボチャやジャガイモという芋類。トウガラシやニンニクといった保存性の高い香辛料。それに加えて今年は時々ニンジンを買った。ウサギという予期せぬ家族が突然加わったためだ。お陰で今年はニンジンをたくさん食べたなあ。・・・そして今日,冬も終わりを告げたんだ。これからは野に畑に庭先にいのちいっぱいの青葉が私や鶏たちを生かしてくれる。

 地球の公転は私たちが感じられないほどに緩やかで,春の訪れも決して急ぎ足とは言えない。季節の巡りには自ずと大地と風に裏付けられたペースがある。その足音,悠然として山を歩く巨人の如し。その足どりに随って私もまた,生きていくんだね。
(06年3月17日のエントリー「季節の足音」より)

 これを読んでみると,アグリコさんの生活ぶりが,肌で感じるようにわかってくるはずだ。ただ,このブログの中でアグリコさんが綴っていることは,単なる日常の記録だけではない。自給生活を送るがゆえに感じる様々な問題。そういったものを,しっかりと丁寧に書き残している。

 問題は,あまりに「安価」になった食料の価値をそれがゆえにあまりに軽く見てはいないか,ということだ。確かに早飯早糞が美徳と言われてきた国ではあるのだけれど,体を生命を形作る食べ物というものの本来的な価値というものを日常の中で見失い過ぎてはいないだろうか。

 技術革新というそれらしい言葉の陰でもたらされた当節の「安価な食べ物」ではある。けれど実はそれら食べ物の大半は生命力に乏しい非力なものでしかないことも事実だ。現在大量生産される作物から化成肥料と農薬やビニールハウスを取り払ってしまえば,残された植物は大半が自力で実を結ぶに至らないものばかりなのである。それはもちろん大多数の家畜にも当てはまる。

 つまり私たちは,見た目割安な食料を手に入れているようだけれど,その実「それに見合った程度」のものしか口にしていないということではないだろうか。
(06年3月17日のエントリー「食べ物の値段」より抜粋)

 何とも示唆に富む記述だと思う。ただ,ブログというツールで発信する場合,こういった「能動的に読み込まないと理解できない」エントリーというのは,書く労力の割には多くの読者を獲得できなかったりする。また,しっかりと述べられているものほど,読者からコメントやトラックバックを貰いにくいのも事実だ(ブログの作者と同じくらいの労力で物事を考えないといけないからだ)。しかし,アグリコさんはそういった事情も織り込み済みで,ブログを更新していると語る。

 「今の私は"私のために" ブログをしています。ただブログには,読者とのコミュニケーションという面白さがあります。特にこのような田舎暮らしをしていると,読者との繋がりにより一層大きな魅力を感じてしまうのですが,それを意識し過ぎると喜ばれる記事を書きたいという誘惑に駆られてしまいます。現に私自身,随分と長い間それにのめり込みました。それはそれで別に悪いことではないのですが,私はある時期からそのような『読み手への意識』をかなりの部分失くしてしまいました。つまり『人と会話する』ことから『自分との会話』に重点がシフトしたのです」

 このように意識が変った背景には,「真剣な語りには真剣に耳を傾ける。お互い一個の人間として互いに安心して会話できる場でありたい。ネットという顔の見えない限られた条件の中で,でき得る限り人としてつき合いたい」という想いがあったという。

 つまり,アグリコさんは,それまでよりも一歩先の段階で自身に,そして多くの人に語り掛けたいと思ったのだろう。

 こんな想いで綴られるようになったこのブログは,以前に比べてひとつのエントリーが長くなり,更新頻度も少なくなった。まさに「無理なく書きたい」と思ったものだけが綴られている感がある。

 しかし,その文章の巧みさと,自然や人間の摂理という本質的な話題は,誰もが興味深く読めるものばかりだ。

 ブログというツールは,まだまだ未成熟な使われ方をしているケースも散見される。しかし,本当に"大人"が読むに耐えうるものも,着実に増えつつある。その好例が,この『アグリコ日記』だと感じている。ぜひ人生経験の豊富な方たちにじっくりと読んでもらいたい。

(岡部敬史)


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