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大人のブログ探訪

『Red Fox』

2008/07/03

『Red Fox』

 2008年6月8日。秋葉原で起こった連続殺傷事件については、まだ記憶に新しいことだろう。この事件では、犯人がネットの掲示板に犯行予告を書き続けたこと。犯行場所が、オタク文化の発信地である秋葉原だったこともあり、インターネット上でも膨大な数の関連記事がアップされた。

 また、その記事群も、現場に居合わせた人の体験記や現場写真。なぜ犯行が行なわれたかの分析など、実に多種多様なものであった。

 そんななか、とりわけ印象深い記事があった。それは犯行の翌日にアップされた「秋葉原の無差別殺傷事件、英米ではどう見られているか 英タイムズ紙の読者コメント」という記事である。

 この事件は英語メディアでも随分と報道されていて、現時点で145種類の記事が複数のメディアに延べ1034掲載されています。《中略》英国タイムズ紙の秋葉原事件の記事に1日で100を越す大量の読者コメントがついているなど、イギリスなど英語圏読者も自国と関係のないニュースとしては異例に関心が高いようなので、コメントの訳を併せて紹介します。

 これは、その導入部に付された原稿である。このようにこの記事では、イギリスの新聞に対する読者コメントを翻訳することで、海外の人がこの日本で起きた事件をどう見ているのかを紹介しているわけだ。では、そのコメントをいくつか紹介しよう。

★西洋の我々は個性と自由を当然の事と思うが、日本は究極の順応主義の社会で、それは「出る杭は打たれる」と言われる。殺人は許されない行為だが、これは自分自身でいる事を許されない人々のフラストレーションの究極の表現である。
エド ロンドン

★私は日本に住んでいたが、彼等の社会と言語は鍛錬、感情的距離、形式、きつい仕事と外部と隔絶された環境によって出来上がっている。それは個人の表現が受け入れられる西洋とは正反対のもの。日本の歴史をチェックすればこれが普通の事である事が分かる。
ジョエイ ロサンゼルス (米国)

★日本人は世界一ナイスな人々である。しかし彼等のロボットのような人生は理解出来ない。彼等の人生の大部分は仕事、旅行、パチンコや飲み屋(妻同伴でなく)で過ごされる。若者が生きる意味を理解出来ないのは不思議ではない。
ベンジャミン・アルヴァレス ムンバイ(インド)

 実に興味深い“生の声”ではないだろうか。

 こういった事件が起こることは、言うまでもなく実に痛ましく悲しいことだ。被害者やご遺族の方の心痛を考えると言葉もない。ただ、悲しい事件は起こってしまった。

 そこで僕たちは、この事件から何かを学び、それをこれからの社会にプラスの形として残していかねばならない。そんなとき、こういった海外の人の声は、僕たちにとても示唆に富んだメッセージを与えてくれる。僕たちにない視点を与えてくれる。

 実によい記事だと思った。

 この記事を書いているのが、今回ご紹介するブログ『Red Fox』の岩谷文太さん。アメリカ在住12年目だという。

 「アメリカで暮らすようになり、様々な国籍の人と出会うようになりました。すると、自然に日本人としてのアイデンティティや歴史問題に関心を持つようになったのです。そして、当初は、政治系の掲示板やブログを見たり、書き込んだりしていたのですが“その他大勢のなかの一人”という立場で発言するよりも、自分のカラーだけで出来る場所でやりたいと思うようになりブログを始めました」

 このようにブログを始めた経緯を話す岩谷さんは、2005年の4月から中国との政治問題をひとつの柱に様々な記事をアップするようになったわけだが、その最大の強みは丹念に原文の記事にあたる努力とその語学力にあるだろう。

 インターネットは世界と繋がるツールである。しかし、日本人の多くは、日本語だけで書き、日本語で書かれたものだけを読む。

 これは、日本、そして日本語が持つ固有性に依拠するものだから、この点について優劣を語るつもりはない。しかし、こういった行動では、純然たる事実として情報が限られる。

 インターネットは世界中の情報を自由に得られるはずだ。しかし、語学力の問題。そして海外のサイトを見ようとする行動力の欠如によって、多くの日本人が“インターネットの真の力”に接していないのでは――。そういった障壁を乗り越え、他言語のサイトの情報を紹介してくれるこの『Red Fox』を見ているとそう思う。例えば、「万里の長城に「Free Tibet」垂れ幕 自由チベット学生組織抗議活動」なる記事を見ていただきたい。

 北京オリンピック1年前のカウントダウンの前日の2007年8月7日の朝には、『自由チベット学生組織』によって万里の長城に「自由チベット2008」の垂れ幕がかけられ、英国、米国、カナダ人メンバーが中国当局に拘束されるというハプニングが起こっています。

 こんな導入で紹介されている「万里の長城に『Free Tibet』垂れ幕」の模様は、実にショッキングだ。万里の長城に下げられた垂れ幕の写真。垂れ幕を下げる模様を撮影したYou Tube。そういった個々の場面もショッキングなのだが、こういったニュースバリューが高い情報を知らなかったことが、一番ショッキングかもしれない。

 ネットに接するようになって、いろんな情報を収集できていると思っていた。しかし、日本語で書かれたものだけでは、やはり限界がある。大きな限界がある。それが世界規模なニュースになれば尚更だ。この『Red Fox』を見ていると、そういったことをリアルに感じるのだ。

 「これからは、最新のニュースを追いかけるよりも、あるテーマを掘り下げていくスタイルでやりたいとは思っています」

 このようにこれからのブログについて語る岩谷さん。

 世界とつながるインターネットの力を明確に感じるためにも、一度見てもらいたいブログなのだ。

(岡部敬史)



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