まずは、今回ご紹介するブログ『鴉工房』の作者である小田隆さんのプロフィールからご紹介しよう
主にpaleontology art(古生物学美術)が中心なのですが、現生の生物も描いていることから、総称してnature artとすることにしました。絶滅してしまった生物の復元画や、研究者の考えを絵として表現するので、イラストレーター個人の作品というよりも、研究者とのコラボレーションという側面が強いです。
このように小田さんは、画家としての作品も並行して制作する傍ら、プロのイラストレーターとして、恐竜などの絶滅生物の復元画を手がけているという。ただ、この復元画という仕事は、「ステレオタイプに捉えられる事が多く、本当の部分が伝わっていないと感じる事が多い」と小田さんは語る。では、そんな小田さんのリアルな仕事ぶりを、このブログからちょっと感じとってみよう。
2007年05月13日にアップされた「絵本『(仮)アパトサウルス』35」と題されたエントリーでは、ある恐竜の出産シーンが描かれている。
産卵のシーンである。集団である土地にまとまって産みつけられる卵たち。どうやって産卵したのか、分からないことがたくさんある。地上から総排泄口までかなりの高さがあるので、卵がわれないようにするには膝を深く曲げるか、卵管を伸ばすなどの仕組みが必要だっただろう。膝を深く曲げる事は構造的に無理があるので、卵管を伸ばすアイデアを採用した。
このようにわからない部分においては、様々な考察の上、その構図を決めていくわけだ。単に恐竜の姿を描けばいいというわけではない。その生態を、より精緻に描くためには、描くということと同等に“思考する”という行為が大切なのだろう。
こういった制作の工程がブログでアップされているわけだが、日々、更新されるゆえの面白さというものが生まれてくる。例えば、前述の産卵シーンを描いた次のエントリーでは、こんな記述があった。
昨日というか今日は寝たのが午前4時30分。さすがに空が白んでいた。産卵シーンはまだ完成はしていない。表紙のラフスケッチを描いて、メールで担当編集者に送ってから床についたのだけど、今朝目が覚めると全く違った構図を思いついてしまった。朝食を食べながら簡単なラフを描いて、すぐに出版社へファックス。今の感触では、こっちのほうが採用になる模様(勝手な推測です)。
(2007年05月14日の「絵本『(仮)アパトサウルス』36」より)
このように、日々その構想が変わっていくのを、リアルに知ることができるのだ。読者にとってみると、なんとも刺激的なことではないだろうか。
日々、綴る形式のブログは、このように作業工程をレポートするのにとても適している。小田さんのようなイラストレーターはもとより、陶芸など様々な職人さんもぜひブログに挑戦してみてはいかがだろうか。きっと、作品の魅力を多角的に伝えられるはずだ。
さて、このように日々の活動を記録しながら生物の復元画というちょっと珍しい創作活動を記録している小田さんだが、彼が時折交えるユーモラス溢れる記述も人気だ。
恐竜の復元をする上で、軟組織(筋肉、内臓、皮膚など)の復元が非常に問題になる。というのも、骨以外の部分が化石に残る確率が極めて低いからである。筋肉の復元をするときは、骨格の特徴、関節の機能、筋肉の付着痕などから推測していかなくてはいけない。非常に不確かな情報に頼るしかないのである。
しかし、この広い世の中、長大な地球史には、奇跡と言ってよいようなことがまれに起こる。軟組織が化石になった恐竜が、少ないながらも発見されているのである。
こんな一文で始まるのは『恐竜の軟組織の復元- Tyrannosaurus rex-』と題されたエントリー。この後「ティラノサウルスのミイラ化石が現存する」という話から、それを元にした復元作業へと話題が移っていくのだが、これはすべてエイプリルフールのネタだったというオチになる。
なんとも高等なエイプリルフールネタであるが、このブログの読者のみなさんは楽しく騙されていたようだ。
「少しでも長く続けていくことと、もっと多くの人に読んでもらえるようにしていきたいと思います。一番心に残っているのは、常連さんの一人に小学生のときから読んでくれている方がいるのですが(現在中学生)、コメント欄のやりとりで自分がとても成長できた、ということを書いてもらったことがあったことです。これは嬉しかったです」
このようにブログを綴る楽しさを語る小田さん。「個人で仕事をする事、絵を描く事、復元とは何か、そういったことを、もっと多くの人に知ってほしいと思います」と語る彼にとってブログとは、もはや欠くことのできないものになっているようだ。
(岡部敬史)