「紀州南高梅の青梅や梅干し、みかんのPRをするため。また多くのお客さまに当園の様子や和歌山の自然の素晴らしさなどを知ってもらうために始めました」
このようにブログを始めたきっかけを話すのは、和歌山県にある未来農園の高垣さんだ。まずは、高垣さんが作る梅の生産過程を報告するエントリーを見てみよう。
日差しも強くなってきて、むし暑くなってきたので、当園の南高梅も熟してきました。特に日当たりのいいところの実は、写真のように真っ赤になります。紅南高と呼ばれる、最高の梅です。気温がなかなか上がらなかったので、なかなか実の熟度が進まなかったのですが、ようやく例年並に熟してきました。
(2007年6月12日 のエントリー「完熟の南高梅です。」)
こういったエントリーを読むと、販売されている製品が、実に愛情たっぷりに育てられていることがわかる。ただ高垣さんは、こういった記事を通して、単に産直の利益をアップ図るだけでなく、プラスアルファの何かを伝えたい――そう思っているようだ。
「商品の値段を見てもらえたら理解していただけると思いますが、当園はお金儲けのためだけにやっているのではありません。ですからサイトやブログは、お客さまに喜んでいただけることを第一の目的としています。価格以上の喜び、充実感を味わってもらいたいと思っております」
未来農園のサイトにおいて販売されているものを見てみると、塩だけで漬けた無添加無着色の梅干しなどは、その品質からするとたしかに安い。
このように安くて美味しいものを届けるために、日々どのような形で生産しているのか知ってもらいたい――。そんな願いを叶えるための手段が、このブログでの発信なのだろう。
また、このブログは、読者に喜んでもらいたいという想いが強いようだ。それは「何か思い出深いエントリーを2つくらい紹介してくれませんか?」というお願いに対して、高垣さんが挙げてくれた記事からも窺い知ることができる。
母方の祖父、元体育教師のITじいちゃんです。以前紹介しましたが、今回は写真で紹介します。見た目は普通ですがちょっとユニークなじいちゃんなので。昔は砲丸投げの選手だったそうです。背も173センチほどあります。現在86歳という高齢でデジカメはもちろん、デジタルビデオの撮影、編集、パソコンを使いこなす、すごいじいちゃんです。ITじいちゃんと呼んでいます。
ひとつは、この「元体育教師のITじいちゃんです。」
という記事。身近にいる尊敬できるユニークな人物。そんな人を紹介できたことが、強く心に残ったのだろう。ちなみに、もうひとつの記事には「阪神対オリックスの2軍のウエスタンリーグです。」という、その土地のイベントに対する感想を綴った記事だった。
「おかげさまで、今年分の青梅はあっという間に売り切れてしまいました。みなさん喜んでくれていますので、とてもやりがいがあります」
このように消費者の喜ぶ声が何よりも嬉しいと語る高垣さんのブログを見て、こんなことを感じた。
ものを作っている人にとって、消費者の声というのは、何物にも代え難いほど大切なものだろう。それは喜びを与えてくれるだけでなく、とても大切なことを教えてくれるのだと思う。
昨今、食品に限らず生産現場のずさんな状況が報じられることが多いが、自分たちが作るものを消費してくれる人の顔が見えていれば、そんなことは往々に起こることではないと思う。納品してお金をもらって終わり。自分が生産したものが、どういう経緯で消費されているのかも知らない。こういった状況が、無責任な生産現場を作っているような気がする。
そういった状況におけるひとつの解決策がブログだ。生産者と消費者の距離が近い未来農園のブログを見ていると、改めてそんな想いを強くした。
(岡部敬史)